有限会社ドットワン

Macと出会ったあの頃
〜Macintrash 最終話〜

2016年10月28日

10年ぶりに社内の一部を模様替えした。
永らく最奥まで引っ張り出すことのなかったサイドワゴン最下段の引き出しを全開にしたら、1990年頃の珍しい啓蒙・販促用ブックレットが出て来たので記録しておきたい。

ひとつは、アップルコンピュータジャパン株式会社の発刊した『Apple Desktop Publishing Solution Guide Book』。もう一つは株式会社いづみや・クリエーターズステーションが発行した『Apple Macintosh Guide Book for biginner』という冊子。

Appleガイドブック イズミヤガイドブック

少し時代背景をメモしておくと、Macintoshを核にしたDTPシステムが日本に上陸したのは1987年頃とされています。90年代に入ってからはまさに燎原の火の勢い、瞬く間にデザイン・印刷業界に広がり、ワークフローを一変させました。この変化、まさに革命。なにしろ、仕事の仕方が変わり、消滅した業種、業界があったのですから。この2冊は、そんな爆発的普及期が始まろうとしていた頃にパブリッシュされたものです。

『Apple Desktop Publishing Solution Guide Book』は、A4サイズ、厚紙表紙、本文84ページ・フルカラーの立派なもの。
当時の最新の周辺機器も含めたハードウェアとソフトウェアが紹介されており、全体を通じて「DTPって何?」というのが、2回ぐらい通して読んで眺めればわかるようになっている「システム案内ガイド」です。

グラフィックプロセッシング プロダクツインフォメーション 裏表紙

裏表紙には、発行元の社名と発行年の表記があり、言わずもがなだけど、アップルコンピュータジャパン株式会社とは、Apple Japanの当時の社名。コピーライト表記(マルシー)の末尾の「1989」は、1989年制作の意。おおっ、¥1,100-の表記もある。売品だったのだ(販売会社の営業さんにもらったものなので、今日まで気付かなかった)。

もう1冊の『Apple Macintosh Guide Book for biginner』は、A4、色上質厚紙表紙、本文60ページ・1色刷りで、まさに「(当時の)DTPシステムで作りました」という手作り感あふれる冊子です。
発行元の「IZUMIYA(いづみや)」とは現在の「株式会社Too」、クリエーターズステーションというのは当時のDTPシステム販売専門の部署名(なんか、かっこいい)。
こちらの方は、『…for biginner Ver1.5』の名の通り、Macを知らない人(知ってるわけがない。なにしろちょっと前にアメリカから来たのだから)、触ったことのない人に、マウスの説明から入る「基本操作ガイド」になっている。

いづみやガイドブック裏表紙 マウスの説明 アイコンの説明

つまり、この冊子は、システムが搬入された後、Mac操作習得に使用するトレーニング用マニュアルなのです。その時の風景、今でも朧げながら頭にあります。
私がこの冊子を今まで持っていたのは、当時勤めていた会社のシステム導入の検討委員&窓口担当であったからで、導入したのは1992年でありました。(※)
デザイン事務所の感覚から言えば桁外れの高価格と期待していたほどでない出力結果、費用対効果は大きくマイナスで、経営トップに攻められ続けること数年、Power Macが発売され、OCFフォントが出揃い、1人1台の時代が到来するまでは本当にシンドカッタ。が、あれから24年、もう歴史的事項といっていいでしょう。
だとすれば、上の2冊は歴史資料かも知れませんね。(笑)

アナログ(手仕事)でデザインしていた時代を知る人は本当に数少なくなりました。
マジョリティーとなったデジタル機器を使ってデザイン作業を行う人、”デジタルデザイン”世代の人達が、手書き風やアナログ感をデジタル機器で工夫しているのを見聞きすると、デジタル機器もひとつの”道具”、デジタルデザインもあたりまえの”手法”になったんだと、妙に明るい気分になったりします。
普及期発展期であれば、”以前”と比較して”今”の至らぬところや改善要望を記録することは(ぼやきにせよ)少しは意味があったと思うけれど、もうこれがスタンダードとなると、コラム「Macintrash」は、使命を終えたと思われます。
Macintrash、この稿でめでたく完結といたします。

(※)当時のリアルな気分に興味をお持ちの方は、拙文「DTP現場日記 Undo,Redo」のアーカイブをお読みください。

記:内田憲志